公開日:2020.11.11 更新日:2023.09.30
空き家がシェアキッチンに大変身!商店街での活用事例
空き家の増加は年を追うごとに増加の一途をたどり、総務省統計局の住宅・土地統計調査によると、2018年の空き家率は過去最高の13・6%を記録。
一方で、2019年には88万戸の新設住宅着工戸数が記録されるなど、新築戸数の増加によって築年数の経過した物件の活用や入居者確保は難易度の高いものとなっており、空き家活用にも工夫が求められるようになりました。
そこで今回は、近年注目を集めているシェアキッチンを活用し、空き家を使った商店街活性化・飲食店の起業家支援に取り組んでいる「かめやキッチン」を特集します。
所有者の思いや空き家活用の経緯などを踏まえて、「空き家問題解決のヒント」に迫りました。
目次
活用した空き家の概要や土地柄について
かめやキッチンは東京都板橋区、東武東上線・大山駅の眼前に広がる全長560メートルの「ハッピーロード大山商店街」内、西側に位置しています。
まずは地域性や街並みの特徴などを整理しておきましょう。
大山商店街周辺の概要
大山商店街は、線路を挟み西と東で以下のような異なる傾向があると分析しました。
・東側は、チェーン店や生鮮食品店が多く、自転車で道が通れない程混雑
・中央から西側の商店街には徒歩の通行人が多い
・中央から西側には飲食店が少ない
つまるところ、東側はチェーン店や生鮮食品店が多いのに対し、西側は個人店が主流となっているため、東側と西側で人通りや通行者の傾向に大きな違いが感じられる状態です。
同じ商店街でありながら、ある意味分断されているともいえるこの状況は、「商店街活性化」というテーマを掲げる中でひとつの課題でした。
大山商店街周辺の再開発プロジェクト
大山駅は東京都の中でも利用者数の多い池袋駅まで6分、新宿駅まで22分とアクセスが良く、また駅周辺に商店街や住宅地が密集している土地柄もあって、東武東上線の中でもとりわけ人気のエリアです。
そのため、以下のような複数の開発事業計画が立てられており、着々と準備が進められている状況にあります。
・大山駅前広場計画…現在、建物が存在する場所も含め、バスやタクシーの乗降場や交番などを配置した駅前広場をつくる計画
・大山駅付近の連続立体交差事業…隣接駅との区間に位置する踏切8箇所を高架化する、鉄道の立体化計画
・大山町クロスポイント周辺地区第一種市街地再開発事業…補助第26号線が延伸される関係上、ハッピーロード商店街を分断し、周辺の建物整備等を図る計画
これら様々な再開発プロジェクトは地域の活性化などの明るい可能性をもたらすだけでなく、「商店街の分断にどう対応するか?」という新たな課題も生み出しました。
空き家活用でシェアキッチンに至った経緯
東京都内でも人気のエリアでありながら、分断化やエリアごとの傾向の違いなど、街の心臓部である商店街にてさまざまな課題を抱えていた大山商店街。
この大山商店街の西側に、後の「かめやキッチン」となる「履物屋 かめや」はありました。
位置するのはまさに、再開発クロスポイントの中心地。
所有者は何を感じ、どのような思いで空き家活用を決断したのでしょうか?
所有者の思い
「履物屋 かめや」の歴史は古く、実に80年以上に渡り、世代交代を経ながら履物屋を営んできました。
ところが昨今日本でも社会問題化している「後継者問題」の波が、「履物屋 かめや」にも押し寄せます。
後継者に恵まれず、店を畳みたくはないと感じながらも泣く泣く決心を下したオーナー。
空き家活用を手掛けた「アキサポ」の担当者に対して語ってくれた想いを辿りながら、当時を振り返りましょう。
とても味のあるお店ですね。掛け時計もアンティーク感が出ていて、個人的にはとても素敵だと思います。
そうね、私が物心付いた時から両親がやっていた履物屋さんなの。こんな狭い店舗兼住宅だけど、一時期は兄弟姉妹全員揃って大家族で住んでいたのよ。ちょっとずつ店舗の販売スペースをリフォームして、時代に合うように手も入れてきた大切なお店なの。
でも私も足腰が弱くなって施設に入居してしまったし、後継者もいないので…もったいないけれど店じまいさせてもらおうと思って。
そうでしたか…。健康が第一とはいえ残念ですね。
今、見学させていただく間にも色んなお客様がオーナーさんにお声がけされている様子を見て、本当に街に溶け込んだお店だったんだなとひしひしと感じます。
私だけじゃなくて、親の代からのお付き合いだからね。
だからこのお店がそのまま閉じて、カビが生えていってしまうのはイヤなの…。
たとえ業種が変わっても、街の人たちが行き交うような場所にしてもらいたいと思っているのよ。
店を畳む決心を下したオーナーでしたが、同時にその心の中には「たとえ履物屋でなくなったとしても、何もせず手放すではなく、街のために何らかの形で活かしたい。」と、店舗にする愛着だけでなく、街の未来を想う気持ちがありました。
空き家活用会社の現状分析と狙い
履物屋を畳むことを決心したオーナーですが、同時に「ここだから出来る新しい仕掛けがあるんじゃないか?」とも考えていました。
そこで、まちづくり大山みらい株式会社を通じて、ジェクトワン「アキサポ」へ相談する運びとなります。
アキサポに求められたのは、単なる空き家活用だけでなく、地域性や所有者の思いも踏まえたプロジェクト。
実際に大山を歩き、話を聞き、分析を重ね結果、さまざまな「現状と課題」が見えてきました。
まず、大山商店街を語るうえで外せないのが「再開発問題」です。
鉄道施設の改修や道路の延伸、駅前広場の新設といったいくつもの再開発プロジェクトの影響をもろに受ける大山商店街は、将来的な「商店街分断の懸念」を抱えていました。
調査時の時点でも商店街の中央から以西・以東で、通行者や人通りにおいて異なる傾向を見せていたため、再開発が進めば商店街分断が加速する可能性すら出てきます。
さらに、商店街がひとつとなり活性化するには、流動性だけでなく、街行く人が足を止め、さらに交流の場ともなるような「停滞と流動の程よいバランス」が求められることも重要なポイントでした。
もちろん商店街という大きな枠組みの中にあるとはいえ、形成する店舗がそれぞれ一定の自立性を保つ仕組み作りが大切な点も考慮しなければいけません。
特に以前の「履物屋 かめや」のような店舗は、商店としての役割だけでなく、人目につく「道」の中にある、防犯・防災、子育てにとって身近な存在でもありました。
まさに「地縁型コミュニティの核を成してきた」存在であり、空き家活用を行う上でもその役割を引き継ぐ必要性があると感じたのは、ごくごく自然な流れでしょう。
アキサポはこれら「現状と課題」を踏まえたうえで、過去に同じく商店街内の空き家活用を行い、シェアキッチンとして運営を行っている事例も参考にしながら、必要なのは「自立性・持続性の高い事業計画」であるとの考えに辿り着きます。
なぜシェアキッチンなのか?
空き家活用の方法・戦略は多種多様であり、空き家の数だけ活用の仕方は存在すると言っても過言ではありません。
また、大山商店街の「現状と課題」を分析したうえで辿り着いた「自立性・持続性の高い事業計画」が必要であるという点も踏まえて。
今回、なぜシェアキッチンを提案したのか?
そこには現状分析から見えた課題への対策、さらには大山商店街ならではの狙いが込められていました。
【本件における空き家活用のポイント】
・事業として自立性・持続性の高いコンテンツであること
・「大山らしさ」の象徴となる場に成長させていく狙い
・地域貢献性を重視した事業であること
これらの要素を満たし、「大山らしさ」を持ち合わせた空き家活用法こそシェアキッチンだったのです。
飲食店開業にはまとまった資金が必要なだけでなく、物件探しや内装工事、備品の調達など多くの時間と費用を割かなければいけません。
しかし、近年では低資金、低リスクで開業にチャレンジできる代表的なケースとして「シェアキッチン」が次々と登場。
このシェアキッチンを空き家活用に用いることで、様々なメリットを生み出すとアキサポは考えました。
【シェアキッチンが生み出すメリット】
・料理を提供して新商品の開発に役立てられる
・店を構えるほどの資金はないが、飲食店開業を目指す人にとっての場所を提供できる
・時間ごとに出店する店が変わるため、地元の人にとっての楽しみとなる
・シェアキッチンを中心に、自然と交流が生まれる拠点づくりになる
・板橋区内の起業支援施設として、飲食店の起業家専門の起業塾を開講
上記はあくまで一例ですが、近年注目を集めているシェアキッチンの特徴は「商店街の分断」という懸念を抱える大山商店街の課題とマッチしていたのでした。
かめやキッチンとは?
長年、地元の人々に愛されてきた「履物屋 かめや」から、シェアキッチンへと生まれ変わった「かめやキッチン」。
「次世代を担う人たちに使ってもらえるようなシェアキッチン」をテーマに、さまざまな工夫が盛り込まれ、幅広いニーズに応えられる環境が整えられています。
・冷凍冷蔵庫、業務用3口ガスコンロ、対面冷蔵ショーケースなど本格的な業務仕様の設備
・キッチン・販売・接客の3スペース完備
・菓子・食品製造業を取得しているためテイクアウト販売が可能
・客席のみのレンタルで、イベントスペースとしての活用に対応
・プロから商品開発や販路形成についてアドバイスを受けられる創業支援サポート実施
シェアキッチンとして調理環境を提供するのはもちろん、「さまざまな悩み・想いに応えられる場所と環境」が用意されているのは、「かめやキッチン」ならでは特徴でしょう。
週末の空き時間に自分のお店を開きたい…
料理教室やイベントを開催したい…
起業のために腕試しをしたい…
自作の成果を販売したいけど自宅では保健所の許可がおりない…
そんな「あったらいいな」を形にしたサービスこそ、「かめやキッチン」の最大の魅力です。
かめやキッチンの活用事例
すでに「かめやキッチン」では、多種多様な形でシェアキッチンが活用されていますが、ここでその一部をご紹介しましょう。
みんなのお菓子屋さん 月と田んぼ
「大地と、農家さんと、あの人…をつなぐ」をテーマに、人に自然に優しいお菓子を提供している「みんなのお菓子屋さん 月と田んぼ」。
「かめやキッチン」では、卵や乳製品不使用のお菓子をはじめとして、アレルギーのある人でも楽しめるお菓子販売や1Dayカフェなどをオープンしました。
初出店では告知も少ない中、小麦アレルギーのお子様を持つ方など、たくさんの人が来店するとともに、出店者の息子さんやお友達が手伝いに乗り出すなど、実りの多い営業となったようです。
シェアキッチンを通じて、異なる境遇の人が交わり、親交を深める。
まさに「かめやキッチン」がテーマとして掲げる、「さまざまな悩み・想いに応えられる場所と環境」を活かした活用方法でしょう。
かめやバー(イベント)
お酒を楽しみながら、「かめやキッチン」や「大山」の未来について語り合いながら、親交を深める場として開催されたイベント、「かめやバー」。
・まちで何かやりたいことがある方
・再開発についての意見やアイデア
これら大山の未来に関する意見交換の場だけでなく、「FOOD:無料」「FOOD提供者はチャージも無料」、さらにはキッチンのお試し利用が可能など、新しい取り組みを次々と盛り込んだ地域密着型シェアキッチンならではのイベントでした。
飲食起業塾
シェアキッチン以外にも、「かめやキッチン」では多様な取り込みを行っていますが、その中でも目を引いたのが「飲食起業塾(かめやキッチン起業塾)」です。
板橋中小企業診断士協会による運営・監修のもと、中小企業診断士、MBA(マーケティング専攻)、文学修士などの資格を持つ講師を招き、飲食店の起業を志す方への支援イベントを開催しました。
・マーケティング
・接客・店舗運営
・事業計画
・プロモーション
・財務・補助金
・事業計画
これら飲食店の起業に関わる全7回のテーマでプログラムは構成され、毎回異なる専門家によって経営や起業のノウハウがレクチャーされます。
主催は「商店街活性化委員会」によって行われており、「かめやキッチン」が商店街全体の活性化や交流における要所となっているのがよく分かるイベントでしょう。
※2021年1月より開講予定、2019年11月下旬~募集開始
※詳しくはかめやキッチンHPへ
かめやキッチンのメリット
再開発の影響も受け、商店街分断化や衰退化といった不安を抱える大山において、「大山らしさ」の象徴となり、地域貢献性まで見越してつくられた「かめやキッチン」。
そもそもシェアキッチンは飲食の分野で汎用性が高く、近年注目されている存在ではありますが、壮大なテーマを掲げる「かめやキッチン」にとって、どこまで活用できるか?はオープンするまで未知数の部分があったのも事実でしょう。
ところがオープン以降、「かめやキッチン」はシェアキッチンならではの用途に限らず、起業家支援や地域住民の交流の場として着々と成長を続けています。
その証拠に「かめやキッチン」だけでなく、商店街活性化委員会をはじめとする地元住民が協力したイベントもすでに行われており、「いち店舗」にとどまらず、大山の未来の一翼を担う存在としての期待すら感じるほどです。
シェアキッチンの有用性、実用性については全国で様々な事例が存在しますが、「かめやキッチン」はこれまでになかった新たな可能性を今後さらに見せてくれるかもしれません。
空き家のシェアキッチン活用事例まとめ
今回の調査で、「かめやキッチン」は空き家活用の多様な可能性を示してくれました。
空き家の適切な活用方法は、空き家そのものの設備や様式だけでなく、周辺の地域性や立地によっても大きく異なります。
「かめやキッチン」のように、地域性やそこに住む人たちの想いも踏まえて活用を進めることで、活用の幅は大きく広がるといえるでしょう。
アキサポでは今回のケースと同じく、地域コミュニティを尊重した空き家活用の提案を得意としています。
所有者の思いやお悩みを丁寧にお聞きしながら、寄り添った提案を行っていますので、興味がありましたらお気軽にご相談ください。